年齢的にも正社員で働くことは難しいと思っていましたが、自分らしく働ける企業に出会えました。
T.Yさん(MTF/41歳)
最終学歴:高校卒業
経験社数:正社員1社・派遣複数社
前職:日雇い派遣 ≫ 現職:タクシードライバー
転職成功のポイント
不安の中でも学んでいく覚悟や意欲を持って未経験職種に挑戦したこと
LGBTの認知が高まってきたこともあり、正社員の仕事を探そうと思いました。
ー これまでのご経歴について教えてください。
高校を卒業後、自衛隊に入隊しました。自衛隊では5年程働き、その後は夜の仕事や警備、日雇いなど、転々としていました。
男性物のスーツを着て面接に行くんですけど、どうもだめで・・・。これまで正社員の職に就けなかったのはMTFであることが大きな理由です。ずっと正社員として安定して働きたいという気持ちはありました。給与もそうですが、社会保険などに入りたかったんですよね。
ー MTFトランスジェンダーと自認されたのはいつ頃でしたか?
10代の頃から自分の性別に違和感がありました。でも当時、社会の理解は全くと言っていいほどなかったですから、MTFであることをカミングアウトすることなど到底できませんでした。
私が高校を卒業した当時に比べれば、今の時代は随分と生きやすい世の中になったと思います。ここ数年足らずでLGBTという言葉自体も急速に広まったと思います。
ー 世の中が変わってきたことが正社員として働こうと思えたきっかけだったんですね。
ずっと私のような人間が正社員として働くことは難しいと思っていたんです。でも時代が変わってきたことを感じて、そこに期待をして、男性としてではなくMTFとして女性の容姿で正社員での就職先を探してみようと思い切りました。
LGBTフレンドリーな企業の紹介をしている転職エージェントがあるということを知ってはいたんですけど、すぐに登録はしなかったんですよね。
職歴がない41歳でもサービスが利用できるのか、すごく不安でした。
ー Nijiリクルーティング転職のことはご存じだったんですね。でもどうしてすぐには登録をされなかったんですか。
登録するページを見て心配になってしまったんですよ。20代と書かれていたので、私はサービス対象外なのかなと思いました。実際にハローワークに行ったときも私の年齢とキャリアだとなかなか正社員の求人はみつからなかったので。そこでまずは正社員経験がほとんどない40代でも利用可能かどうか、電話で問い合わせをしてみたんです。
案の定、『40代の未経験の方向けの求人が転職市場にあまりないため、ご紹介できる求人数は少なくなってしまいます。』と言われました。でもそのあとに続きがあって、『ですが、これまでのご経験やご希望など詳しくお伺いし、ご紹介できる求人をお探ししたいと思いますので、まずは登録ページよりご登録いただけますか?』と言ってもらったんです。
お断りされるんじゃないかと少し思っていたので、正直驚いたんですが、電話を切った後にすぐ登録をしました。
ー ご登録いただきありがとうございました。その後はいかがでしたか?
やっぱり最初のキャリアアドバイザーとの面談時にも40代未経験向けの求人数は少ないという説明を頂きました。ただそんな中、『これまで夜のお店で働かれていたということで、培われてきた接客力を活かせると思います。』『MTFトランスジェンダーの方も働いている職場なので、働きやすい雰囲気や設備がありますよ。』『正社員なのでもちろん社会保険にも入れますし、基本給+歩合なので高い給料を稼いでいくためには相応の努力も必要ですが、最初のうちは給与の補償制度もあります。』『研修もとてもしっかりしているので、始めやすいと思いますよ。』とおすすめされたのが、タクシーの求人でした。
タクシー乗務員という仕事はあまり考えたことがなかったのですが、実際に働いているMTFの話をお聞きして、ここなら自分も自分らしく働けるのでは?と思い、応募しました。
気さくで、何でも話してくれて、MTFの理解がある人事の方でした。
ー 求人をご紹介できて本当によかったです。面接はどうでしたか?
人事の方と1対1だったんですが、面接というよりもフランクな会話という印象でした。これまでに苦労したことやMTFとして面接に挑んでみようと思った経緯など、いろいろと話を聞いてもらいました。
とても話しやすい方で、お聞きしてもいいのか迷ったのですが、LGBTに関することも私自身突っ込んでお聞きすることができました。LGBTダイバーシティに取り組まれようと思ったきっかけや取り組んでみてからの社会の理解度合いなど、包み隠さずに何でも話してくれました。
ー 面接を受ける前と受けた後で印象の違いなどはありましたか?
LGBTに対する世の中の考え方やもっと生きやすい世の中にしていきたいという話で盛り上がって、面接っぽさがないなと思いました。あとはMTFで苦労したことの話をしたときに、とても親身に話を聞いてくださいました。
この企業が特別だったのかもしれませんが、あまりセクシュアリティに関する話ばかりになってはいけないと思っていたので、こんなに真剣にLGBTのことを考えてくれている人事の方がいることにとても驚きました。
ー LGBTフレンドリー企業としての取り組みについてはどうでしたか?
形だけじゃなくて、ちゃんと理解が進むように一生懸命になって取り組まれているという印象を持ちました。
私が希望していた営業所では、すでにMTFの方が働いていらっしゃるということをその時に伺ったのですが、その方が入られるときは受け入れるのが初めてで、かなり大変だったみたいで。やっぱり昭和な雰囲気はある業界の中で、1人1人の理解を得るために営業所の社員全員に研修をしたり、なかなか理解が得られない人には人事部が個別に面談をしたと聞きました。
これだけ取り組みをされていても、『うちはまだまだです。』と話されていたのも印象的でした。1回きりの研修で理解が得られるわけではないということや、これから誰もが働きやすくなるよう事業所の改修工事をしていく予定なども伺い、ここで働きたいと強く思いました。私もこの会社のLGBTダイバーシティ推進の一助を担いたいと思ったんです。
ー 入りたいと思えた会社へ入社ができて、本当によかったです。
人事の方の想いや一般企業の面接で女性の容姿でカミングアウトして話せるというだけでも感動していましたが、その場で『一緒に働けたらいいなと思います』と言っていただけたときは、本当に震えるほど嬉しかったです。
考えたことのなかった職種でしたが、あのとき諦めずに求人に応募してよかったです。
ー 入社をされてみて、実際のLGBTの理解度合いはどうでしたか?
みなさんすんなり受け入れてくれました。先程お伝えしたようなLGBTの理解を進めていくための積み重ねがあったからこそ成り立った環境だと思います。面接時に伺っていたよりも理解が進んでいて、とても働きやすいです。この環境を作られてきたすべての方に本当に感謝しています。
周りのMTFの友人もおすすめだよって伝えてます。
ー お客様とお話しする機会もあると思いますが、お客様との関係はいかがですか?
セクシュアリティについて何か言われたことはないですね。「お姉さんでよかったわ~」と言ってもらったことならあります。女として働けるってやっぱり嬉しいですよね。
実は運転が特別好きというわけでもなかったんですが、もともと夜の仕事をしていたこともあって、人と世間話をしたりすることは好きで。なのでお客様との会話をしているときが一番楽しいですね。
タクシーには時間帯や場所によって、ご利用される方が全然違います。ビジネスでご利用される方、小さなお子さんを連れたお母さん、病院に行くためにご利用されるご高齢のお客様など、いろんな人と出会って、いろんな人の役に立てていると実感できるこの仕事は本当にやりがいがあります。
ー働きやすさと合わせて、やりがいもあるお仕事なんですね。
もともと考えたこともなかった職種でしたが、やってみてからこんなにやりがいがある仕事なんだと気づきました。
40代で正社員として働き始めて、やっぱり大変なこともあります。これからも地理を覚えていくことや道路の混雑具合の把握、お客様が多い時間帯とエリアを経験で培っていくことなど、まだまだ勉強していかなきゃいけないことも山積みです。
でも、だからこそ毎日が充実していて、とても幸せです。あのとき諦めずに求人に応募してみて本当によかったと思っています。本当に人生がガラッと変わったんですよ。出会えてよかったです。